日本人にとって美味しいバーガーと、アメリカで世界一を獲るバーガーは同じではない。6年間、世界の舞台を見続けてきた日本グルメバーガー協会会長・中島テルユキが、BLACOWSの優勝から見えた勝利の条件と、世界の最新トレンドを読み解く。
「日本人に美味しい」だけでは世界に勝てない

私が初めてWorld Food Championships(WFC)を視察したのは2021年。当時は現在ほどバーガー部門の国際化が進んでおらず、ローカル感が強かった。競技のレベルが飛躍的に上がったのは2023年大会で、フランス代表のJoannes Richard(ジョアネス・リシャール)氏が初の国際チームとして優勝を飾ってからだろう。翌年はドバイのHassan氏が優勝し、アメリカのソウルフードであるハンバーガーが、世界で進化し続けている事の証明になった。
その中で痛感したのは、日本人にとって美味しく、美しいハンバーガーを作るだけでは、アメリカの大会では勝てないということだった。
日本の調理技術や食材は、現地の観客や審査員の興味を引く。しかし、興味を持たれることと、得点につながることは別だ。
予選は、特別な研修を受けた一般審査員によるブラインド審査。作り手の情報や作品の背景は伏せられ、味そのものが評価される。
だからこそ、私が日本の競技者に伝えてきたのは、「アメリカ人が懐かしさを感じるような、現地の味に振り切ること」だ。
日本ならではの醤油や味噌などを使う前に、まずは現地の人がハンバーガーに期待する味を理解する。甘味、辛味、酸味、塩味を積極的に重ね、食べ慣れた美味しさを作り上げることが重要になる。
ピクルスもその一つだ。以前、アメリカの競技者から「なぜ日本人のバーガーにはピクルスが入っていないんだ?」と聞かれたことがある。現地では酸味と食感を補う重要な要素であり、食べ手が無意識に求めるものでもある。
一方、決勝は食のプロフェッショナルが審査し、作品のプレゼンテーションもできる舞台。ここでは日本の食材や技法を積極的に取り入れ、独自性を発揮してよいと考えている。
ただし、忘れてはいけないことがある。
「ハンバーガーは本来シンプルなものだ」「食べたときにハンバーガーだと感じさせてほしい」。過去の大会で審査員から繰り返し聞いてきた言葉だ。
どれだけ高度な技術を使っても、最後にハンバーガーとしての美味しさが残らなければ評価されない。
BLACOWS「HULK」が示した、世界一の答え
今回優勝したBLACOWSは、予選で20組中9位という結果から、一般来場者参加型のBURGER BATTLEを経て決勝へ進出した。
予選でも決勝でも、選んだのはハンドチョップではなく、挽き肉のパティだった。
日本ではステーキのような肉感を楽しめるハンドチョップパティが人気だが、現地の競技者からは「ハンバーガーは、がぶっと頬張ってすぐに飲み込みたい料理。何度も噛む肉ならステーキサンドイッチを食べる」という指摘を受けたことがある。
食べ手が求める体験まで理解すること。それも勝つための戦略なのだ。

決勝作品「HULK」では、抹茶バンズ、山椒とカルダモンのマヨネーズ、柚子を効かせたハラペーニョキウイジャム、すき焼きソースなど、日本らしい発想と複雑な味の構成が採用された。
それでも、審査員の評価は「複雑な味と香りの層がありながら、最後に口に残る印象はハンバーガー」「毎日食べたいバーガー」というものだった。
まさに、日本の個性を存分に発揮しながら、最後はハンバーガーの本質に立ち返る。HULKの勝利には、その設計思想が表れていたと思う。
2026年のトレンドは「複雑なものをシンプルに戻す」
今回の世界大会を見て、私がトレンドとして感じたのは、複雑な味を組み立てながら、最終的にはシンプルな美味しさへと着地させることだ。
食材や技法を増やすこと自体が目的ではない。それぞれの個性を掛け合わせたうえで、ひと口食べたときに何が美味しいのかを明確にする。これは今後、日本のグルメバーガーでも重要なテーマになるのではないだろうか。
トレンド食材① 黒ニンニク

ここ2年ほど、私が世界大会で目にしてきたトレンド食材が「黒ニンニク」だ。
熟成によって生まれるコク、甘味、うま味を生かし、黒ニンニクをジャムにしたり、アイオリソースに仕立てたりするチームを複数見かけた。
単にニンニクの香りを加えるのではなく、熟成由来の深い味わいをソースの一部として組み込む。肉のうま味を引き立てながら、味に奥行きを与えられる点が魅力だ。
日本でもなじみのある食材だからこそ、これから国内のグルメバーガーでも、新しい使い方が広がる可能性を感じている。
トレンド食材② ブラウンバター×旬の果物

もう一つ注目したのが、今回の決勝で2チームが披露した「アップルブラウンバターバーガー」だ。
バターを加熱して生まれる香ばしさとナッツのような風味に、旬の果物の甘味や酸味を掛け合わせる発想である。
果物の甘味を単なるトッピングとして使うのではなく、バターのコクや肉のうま味と結びつけ、ソースや味の構成そのものに組み込む。秋のリンゴに限らず、日本の旬の果物との組み合わせにも大きな可能性がある。
例えば、梨や柿、桃など、季節ごとの果物をブラウンバターとどう組み合わせるか。日本のグルメバーガーシーンでも、今後注目したいアプローチだ。
世界一を目指すなら、足し算の先にある引き算を
6年間、世界の舞台を見続けてきて感じるのは、日本の料理人が持つ技術や創造性は、すでに世界で戦えるレベルにあるということだ。
必要なのは、それを誰に、どのように届けるかを設計する力。そして、複雑なものを複雑なまま終わらせず、最後にひとつの料理として完成させる判断力だと思う。
日本の食材を使うことも、独自の技法を追求することも素晴らしい。しかし、それらはすべて、ハンバーガーを美味しくするための手段である。
BLACOWSの「HULK」は、そのことを世界一という結果で示してくれた。
足し算で個性を生み出し、引き算で本質を際立たせる。
これから日本のグルメバーガーが世界へ挑戦していくうえで、この考え方が一つの大きなヒントになるのではないだろうか。
🍔以下審査員のコメント和訳🍔
「抹茶のクリエイティブな使い方が素晴らしい」
「パティのスモーキーな香りが素晴らしく、ソースが全体をまとめ上げている。非常にバランスが取れていて、調和している」
「たくさんの味の層が現れるが、飲み込んだ後の印象は“ハンバーガー”」
「毎日でも食べたいハンバーガー」
「ハンバーガーらしさをしっかり感じられる。スパイス、辛味、甘味のバランスが心地よい」

